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選ばれたのは、脇役でした。

[コメント] 28

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蛍* 2017/04/20 23:46:02  削除依頼

名脇役と言われた俳優も、無駄な動きのない完璧な執事も、みんな心の何処かで「目立ちたい」って思ってる自分を殺してるんだ。


クラスの隅っこで本を読んでるモブ子も、チャイムが鳴ったらすぐに席を立つ帰宅部も、「輝きたい自分」を諦めているんでしょう?


自分のやりたいことを抑え込んでいたら、いつか爆発してしまうんじゃないだろうか。


ま、私は心から脇役を望んでるから関係ないんだけど。

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No.1 蛍* 2017/04/20 23:52:49  削除依頼

◇挨拶◇

こんちは、蛍ですー。
続くか分かんないけど小説書きまーす
更新遅いよ!それでもいいって方はどうぞ読んでいってねん



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No.2 蛍* 2017/04/21 00:02:39  削除依頼

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昔から主役とは縁のない人生だった。


でも私はそんな人生に満足している。


幼稚園の学芸会ではその辺の木その2を熱演したし、卒業アルバムをめくれば後ろの方のその他大勢として写真に上手く紛れ込んでいる。


修学旅行のグループ分けでは機転を利かせ、人間関係のゴタゴタが起こらないようにさり気なく立ち回った。


先月中学を卒業したけど、クラスのみんなは私のことを「居てもいなくても同じ人」だと思っていたんじゃなかろうか。


でも本当に、私はそれ以上を望まない。


だって、疲れそうじゃん。



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No.3 蛍* 2017/04/21 00:06:27  削除依頼

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今日から始まる高校生活でも、私は脇役に収まるつもりだ。


誰かの取り巻きになって、キラキラガールの引き立て役として立ち回るのも悪くないかもしれない。


とにかく目立つのだけは勘弁。


ふわりと生暖かい風が身体を包む。最近まで寒いと思っていたけれど、季節っていつの間にか変わっているものなんだな。


赤信号の横断歩道の手前で立ち止まり、春の暖かさを目を瞑って味わう。


ああ、いい天気____


『ちょうどいい人、見つけたわ』


____え?



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No.4 蛍* 2017/04/21 00:21:56  削除依頼

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空から声が聞こえた気がして、目を開いた。


驚愕。


そこは住宅街に囲まれた横断歩道ではなく、右も左も真っ暗な亜空間となっていたのだ。


「は…どこなの此処は」


言っておくけど一歩も動いてないからね。ちょっと目を瞑っていたら変な場所に立っていたんだから。


先程までの暖かい穏やかな空気が嘘のように、風も温度も感じない闇の中。


不思議なことに、自分の身体は光が当たっているかのように白くぼんやり浮かび上がって見える。


白い光に包まれた自分の手のひらをしげしげと見つめていると、再び声が聞こえた。


『御機嫌よう、ハナコさん』


私の名前を呼ぶのは落ち着いた大人の女性の声。


顔を上げてぎょっとした。


「ヒッ…」


女の人が、浮かんでいたのだ。



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No.5 蛍* 2017/04/21 00:42:26  削除依頼

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『あら?固まっちゃった?もしもーし?』


ヒラヒラと顔の前で白い手が振られる。そこでハッとなる私。


えっと…


ドキドキする心臓を押さえて、改めて目の前に浮かぶ女の人を見上げた。


うわ、派手な人。


くるくると綺麗に巻かれた長い黒髪、目の覚めるようなブルーのドレスに、ピカピカに磨かれたガラスの靴。極め付けは何種類もの宝石が埋め込まれた豪華なティアラ。


どう見えも私とは住む世界が違う人物がそこに居た。まるでどこかの女王様じゃない。


あんぐりと口を開けて眺めていると、紫の瞳とばっちり目が合った。


『ああ、やっとこっち見たわね。時間がないから手早く要件を言うわね』


真っ赤なグロスが塗られた唇が妖艶に弧を描く。


ドレスに気を取られて気が付かなかったけど、よく見れば綺麗な人だな。


この人は一体何者なんだろう。幽霊?どこかの貴族様?要件って、この地味な私に?


ぐるぐると疑問が頭を回る。その間0.5秒。


瞬きするような一瞬の時間で、私は結論を出した。


「人違いですね」
『そう、人違い…って、はい?ちょっと、違わないわよ!』


女の人が慌てたように声を荒げる。だが私はお構いなしに目を瞑った。


これは悪い夢だ。再び目を開いたら、もとの住宅街に戻っているはず。



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No.6 蛍* 2017/04/21 17:53:15  削除依頼

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でも…


『気は済んだ?』


そんな…


目を開くと、先程と何ら変わりのない光景が広がっていた。


『何度やっても無駄よ、無駄。ここは私の魔法圏内だもの』


その人は黒い巻き髪を揺らしながら、混乱している私の顔を覗き込んだ。


『私の名前はクレハ・アメディナート。ハナコさんの住む世界とはちょっと別の世界からお邪魔しているの』


女の人____クレハはそう言って、私の手を両手でそっと握った。


「ちょ、何…っ」
『お願い怖がらないで。やっと見つけた救世主様』
「きゅ…?!」


さっきからこの人は何を言っているんだ。魔法とか別の世界とか、意味が分からない。


挙句の果てに「救世主」だなんて。例え本当でも、こんな凡人に何ができるってんだ。


もしや新手の詐欺…?


クレハは疑っている私の様子には気付かずに、はらはらと涙を零す。


『私の世界は大きな戦争が起こって滅亡したのです。私は死に際の最後の力を振り絞り、残った魔力と意識を飛ばして世界を救ってくださる方を探していたのです』


「世界が……めつぼう…?」


話が壮大すぎて付いていけません。



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No.7 蛍* 2017/04/21 18:14:24  削除依頼

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でも、クレハの瞳から溢れる大粒の涙を見る限り、嘘を言っているようには見えない。


大人の女の人が、しかもこんな美人が泣く光景なんて、映画かドラマでしか見たことがない。


どうしよう。ここで突き放すのも後味悪いし…話だけでも聞いてみる…?


『ええ。しかも、世界滅亡の原因を作ったのはこの私なのです』
「はい?」
『だからハナコさんに私の世界に来てもらって、滅亡の運命から世界を救ってほしいのです』
「ちょ、ちょっと待って!」


私はクレハの手を振り払った。


前言撤回。なにこいつ。自分で滅ぼした世界を、見ず知らずの他人に救えって言っているの?


「あんた、どうかしてるよ。自分で開けた穴くらい自分でなんとかしなさいよ。なんで私なんかに…」


『私では駄目なのです!世界を巻き戻して何度もやり直したわ。でも全部結果は同じだった。私はどうしても原因を作ってしまうみたいなの』


「はあ?世界を巻き戻してもダメって…原因が分かってるなら取り除けるんじゃないの?」


私の言葉に彼女は首を振った。


『無理です。私が、私の存在自体がいけなかったのです』


まだ分からない。クレハの存在が世界滅亡の原因だとして、どうして私がそれを助けなきゃいけないのだろうか。


『私が″目立ちたがり屋”だから…』
「…はい?」



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No.8 蛍* 2017/04/21 21:21:58  削除依頼

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『アメディナート家は代々ロクデナシイズ家に仕えている家系なのですが、私は従者としての人生に我慢ができなかったのです』


碌でなしーズ?変わった苗字だな。


それにしても「我慢ができなかった」って、どういうこと?


『私は普通の人よりも強い魔力を持っていたのです。加えてこの美貌。ロクデナライズ家の嫡女・エリーゼ様のお側に付いてお守りする使命を与えられているのに、私は自分の美貌と魔力に酔いしれ、いつしか大勢の人に注目されたいと考えるようになりました』


は、はぁ。


自分で言っちゃう?それ。


『私は自分の使命を忘れ、自分のやりたいように生きてしまったの。エリーゼ様を蔑ろにするばかりか、お城の舞踏会にこっそり出向き、王子様と仲良くなってしまった。そして、何度か逢瀬を繰り返し…」


クレハのアメジストの瞳がうっとりと宙を見つめる。きっと彼女の頭の中では、夢のような日々が走馬灯のように流れているに違いない。


『ついに私は王子様と結婚することになったわ。でも、それをよく思わない人がいたの』


そりゃあ、従者の家系の奴が主人を差し置いて王子様と婚約したら、色々問題に思う人が出てくるだろう。


『そう、それは隣国の王子様だった』
「……えっ?」


耳を疑う。ちょっと、いやかなり違う方向に話がいったぞ。



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No.9 蛍* 2017/04/21 23:22:13  削除依頼

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「なんでそこに隣国の王子が出てくるの」
『私が隣国にもちょくちょく出掛けていたからですわ。そこでそちらの王子様とも知り合いに』
「……」


駄目だこりゃ。この人に従者としての心得なんてありゃしない。


さすが、自分で"目立ちたがり屋"を名乗るだけあるな。


『私を巡っての恋の争いはやがて武力戦争へと発展したわ。次第に私の魔力を求めて小さな国も立ち上がり、世界大戦になってしまった』


「……」


『もうどうすることもできなかったわ!私はどうすれば良かったの?!何回過去へ戻ってやり直しても、何故か王子様と仲良くなってしまうし、魔力も狙われてしまうのよ!』


「何故か」って…人はそう簡単に王子様とは仲良くなれません!ましてや婚約なんて、シンデレラですかっての。


「要は目立たずに、自分の使命を全うすれば良かっただけの話じゃん。なんでそんなことができないの?」


『これが私の性なのですわ!本当の自分を殺して生きるなんて、何度人生を繰り返しても無理っ』


でしょうね。自覚があるだけマシな方だ。


大変くだらない話ではあったけど、大方理解した。


「で?私に何をしろと?」


ため息混じりに問う。


クレハはパッと顔を明るくしてこちらを見た。


『ハナコさんには、私に変わって"クレハ・アメディナート"の人生を送ってほしいのですわ!』


その瞬間、ずるっと鞄の紐が私の肩から滑り落ちた。


「____はい?」



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No.10 蛍* 2017/04/21 23:41:44  削除依頼

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『私、貴方を見てピーンときましたわ。ハナコさんこそ、従者の家系に相応しい"脇役"の素質があるってね!』


「は、はぁ」


言いたいことは分かるけど。なに?私が貴女の身代わりをするの?


確かに脇役の生き方は心得てますが。


『正確には、私の身体の中にハナコさんのタマシイを宿すのよ。見た目も魔力も私、だけど中身は貴女。そして起こりうる災いを避けていってほしいの』


そんな…無茶な。


「私がクレハになって、クレハとして別の世界で生きろと?」
『ええ』


美しく微笑むクレハは、本当に嬉しそうだ。


『これで世界の滅亡を回避することができるわ!』


「ま、待ってよ!」


私は慌てて声を上げた。


そう簡単に上手くいくとは思えない。


いきなり異世界に放り出されても、常識はこことは違うだろうし、貴族様に仕える作法も知らない。


絶対に、ボロが出る。


それに、私にはハナコとしての自分の人生がある。家のローンを抱えた父さんや、ぎっくり腰が癖になってきている母さんを置いていくなんてできない。


私は重い口を開いた。


「世界滅亡のことは気の毒だけど、それが運命なら仕方ないと思う。だから…」


『実は、これは私の世界だけの話じゃないの』


「え?」


見ると、クレハが眉根を寄せて暗い表情を浮かべていた。


そっちの世界だけの話じゃないって、どういうこと…?



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No.11 蛍* 2017/04/22 00:06:36  削除依頼

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『今の私みたいに、意識だけをこうやって亜空間に飛ばすことのできる強い魔術師は少なからずいるわ。そしていずれ貴女の世界を見つけるでしょう』


私はごくっと唾を飲み込んだ。


「私の世界を見つけたら、どうするの…?」


『適当な人間の意識を奪い、憑依する。彼らは魔法が使えるから、やがてこの世界を力で支配するようになるかもしれないわ』


「そ、そんな馬鹿な話…」


まるでファンタジー。お伽話のようだ。


こんな話、普通は信じない。でも、夢だと思っていたこの真っ暗闇に立っている自分は、ちゃんと息をしているし汗もかいている。


さっきから手の甲をつねっているけど、やっぱり痛い。


夢じゃない。これは本当の話。


私が彼女の世界を救わないと、父さんや母さんも危険に晒される____?


ゴクリ。大きく息を呑んだ。


…そんなの、辞退できるわけないじゃない。


『あら残念、もう時間がないわ。すぐに貴女のタマシイを私の世界へ、正確には6年前の私の世界へ転送します』


「え、もう?!」


こ、心の準備とか、なんかあるでしょもっと!


クレハが懇願するように私の手を握りしめた。その手は冷たく、僅かに震えている。


『頼んだわよ』


風も無いのにドレスの裾がヒラヒラと舞う。


どこからともなく現れた青い光が、キラキラと私の身体を包んだ。


____これから私は、クレハになるんだ。


「?」


あれ、ちょっと待って。


「私がクレハの身体の中に入ったら、今目の前にいるクレハはどうなっちゃうの?」


ごく普通に疑問に思ったことを素直に口にした。


だが私は、すぐにその軽率な行為を後悔することになる。



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No.12 蛍* 2017/04/22 00:22:40  削除依頼

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一瞬、彼女の顔に陰りが見えた。本当に一瞬だけ、ものすごく悲しそうな顔をした気がした。


しかしすぐに元の穏やかな微笑みに戻ると、『そろそろですよ』と話をはぐらかす。


ちょ、ちょっと待ってよ…!


まさか、まさか、ね…。


嫌な考えが浮かんで、冷や汗が背中を伝う。


私が過去のクレハの中に入ることで、世界の滅亡は無かったことになる。


そしたら、滅亡を防ぐためにここまでやってきた目の前のクレハは、存在しないことになるんじゃないの…?


そんな。


愕然とした。彼女は、自分の身よりも世界のことを、私たち他人のことを想って私に身体を託したのだ。


何回も過去に戻って、世界を救おうと1人で頑張って、それでも駄目で。


今日初めて会った私なんかにそんな重大なことを押し付けて、勝手にいなくなるなんて。


「ク、クレハ!!」


堪らず私は声を上げた。


なにか、なにか掛けられる声は…


『ハナコさん……いえ、クレハ。貴女に、私の全てを託します』


サアアッと辺りが青い光に包まれた。眩しくて、涙が出る。


「クレハーーーッ!!」


叫んだ声は、下から勢いよく湧き上がる光によって掻き消された。


『…世界を頼みましたよ』


最後に見えた彼女の微笑みは、今まで見たどんな笑顔よりも美しかった。



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No.13 蛍* 2017/04/22 12:22:17  削除依頼

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その美しい女(ヒト)は己の魔力を使い


何度も何度も過去を繰り返し


世界の滅亡を防ごうとしたが


結末は変わらなかった。


苦悩の果てに辿り着いたのは


とある世界の


"脇役"だった。


〜Prologue End〜



.



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No.14 蛍* 2017/04/23 21:14:01  削除依頼

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「…いいかい、クレハ。お前は明日からロクデナシイズ家に住み、エリーゼお嬢様に仕えるんだ。これはアメディナート家に生まれたお前の使命だよ。粗相のないように、命を削って尽くしなさい」


ランプの明かりが揺れる小さな部屋の中で、隣に座るおばあさんは私の髪を撫でながらそう語りかけた。


「____!」


動揺を隠しきれず、私は思わず目を瞑った。


来てしまったんだ、クレハの世界に。


あんなに煌びやかな格好をしていたのだから、もっと派手な場所に来るかと思っていたけど、ここは思いの外静かで落ち着く。


目の前のおばあさんは、私のことを「クレハ」と呼んだ。


本物のクレハはもうどこにも居ないのに。


ドクドクと血の巡りが速くなるのを感じた。


…これからは私が「クレハ」になるんだ。


もう戻れない。


覚悟を決めろ。あの人の、命を懸けた決意を無駄にするな。


ゆっくりと目を開く。


そして、おばあさんに向かって微笑んだ。


「もちろんです。私は自分のやるべき事を成し遂げます」


世界を救うために、精一杯、"脇役"として生きてやる____!



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No.15 蛍* 2017/04/23 21:55:12  削除依頼

.


翌日。


質素なメイド服に身を包み、私は小さなお屋敷____クレハの生まれ育った家を後にした。


教えてもらった通り川を越え汽車に乗り山を越えた先に、その立派なお屋敷はあった。


街外れの小高い丘の上に佇む西洋風の屋敷。ハシバミ色の石の外壁、黒い屋根、そして白い枠の窓がいくつも並んでいる。


2階に設けられたテラスには、色とりどりの花の植木鉢がセンス良く置かれている。


見るからに豪邸だ。


よいしょ、と重いトランクを運びながら、暖かい風が吹き抜ける青い空を見上げた。


「私、これからやっていけんのかな…」


その時、視界の隅を、銀色の影が横切った。


「あ、鳥」


見たことのない銀色の翼を持った鳥が天高く舞い上がる。


ほんの瞬きのうちに、鳥は遥か彼方の空へ消えていった。


「速っ…この世界の鳥ってみんなあんなのばっかりなの?…って、やば、私も急がなきゃ」


懐中時計の針は、予定の時刻を刻んでいた。


慌てて丘を駆け上る。


クレハ・アメディナート。現在15歳。


今日から、ロクデナシイズ家で働きます。



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No.16 蛍* 2017/04/24 16:22:18  削除依頼

.


重い扉をゴゴゴ、と開く。


「すみませーん…お邪魔しまーす…」


天窓から陽の光が溢れる玄関広間は、映画のロケに使えそうなくらい豪華だった。


天井から吊るされた小ぶりなシャンデリア、繊細な金の模様が描かれた壁。


広間を少し進んだところに2つに分かれた階段があり、その踊り場には大きな絵が飾られている。


「うわぁ…」


まるでお城に迷い込んだ庶民の気分だ。


階段の下から大きな絵を見上げる。


裕福そうな格好をした桃色の髪の男性と、椅子に座った金髪の女性。腕には小さな赤ん坊を抱えており、その脇には桃色の髪の少年が無表情で立っていた。


家族だろうか。椅子に座っているドレスの女の人は、お母さんかな。


それにしても、桃色の髪なんてアニメや小説の中のものだと思っていたけれど、実際に存在するなんて。しかも似合っているのだからすごいと思う。


ここへ来るまでに色んな髪色の人を見てきたのでさほど驚かないが、やはりこの世界は私の世界と違うことだらけで面白い。


一つ不思議なことがあるとすれば、クレハの目の色だ。


亜空間で会ったときは紫色に輝いていたのに、鏡を覗き込んでも写るのは黒の瞳だった。


おかしいな…確かにあの時は紫だったのに。


まさか、中身が私に変わったことで、目の色も変わっちゃったとか?


うーん、あり得る…。


まぁ、別に自分からは見えないからどうでも良いんだけどね。


「____そこで何をしているのです!」
「へっ?!」


突然鋭い声が広間に響き渡った。


びっくりして固まる私。


カツンカツンと靴の音が近付いてくる。そして、グッと肩を掴まれた。


「ひぃっ」



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No.17 蛍* 2017/04/24 22:47:45  削除依頼

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振り返ると、頭一つ分上に鬼の形相があった。


「ででで出た…鬼…!」
「誰が鬼ですか全く!ここの屋敷の者ですが何か?貴女こそ不法侵入なのでは?」


あ、よく見ると普通のおばさんだ。つり上がった目がちょっと怖いけど。


白髪の混じった茶色のひっつめ髪に紺色のロングワンピース、白いエプロンに身を包んでいる。


もしかして、ここの使用人さんかな。


だとしたらこれから私と一緒に働く仲間、もとい先輩じゃん。第一印象が悪かったら後が怖い。


私は慌てて姿勢を正した。


「す、すいませんでした!今日からここで働くことになっている、クレハ・アメディナートと申します。よ、よろしくお願いします!」


声が上ずってしまったが仕方ない。深くお辞儀をする。


「あぁ、アメディナートの一人娘が来るという話は聞いていますよ。ですが、使用人なら使用人らしく裏口から入っていただきたいものですねぇ」


…うっ、このグサグサと容赦無く心を刺す物言い、まるで意地悪な継母のよう。


「もっ、申し訳ありません…でした」


「分かれば良いのです。幸い今日はご主人様はお出掛けになっているのでお咎めは無いですが、以後このようなことの無いように」


言うだけ言うとその人は踵を返し、スタスタと去っていく。


あ、あれ?意外にあっさり解放してもらえた…。


ぼーっとしていると、おばさんがこちらを振り返った。


「何をモタモタしているのです?付いてきなさい」
「は、はいっ!」


これ以上この人を怒らせない方が良さそうだ。


心の中で息を飲むと、私はバタバタと慌ただしく彼女の後を付いて行ったのだった。



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No.18 蛍* 2017/04/25 00:21:48  削除依頼

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おばさんはこの屋敷に30年仕えるメイド長らしい。


名前はマアシャさん。


あの後私は、1階の廊下の奥の部屋____使用人の休憩室に案内され、そこに居た使用人たちに紹介された。


そして屋敷の中と仕事内容について軽く説明を受けた後、今日はもう休んで良いと私の部屋に通された。


どうやら二人部屋らしく、簡素な部屋にはベッドと机が二つ、左右対称に置かれている。


ルームメイトはまだ居ないみたい。


「ふぅ…」


荷物を放り投げ、ベッドに身体を投げ出す。


見知らぬ環境、馴染みのない名前と身体。


知らない間に精神に疲労が溜まっていたようだ。


ごろんと仰向けになり、額に冷たくなった手の甲を置く。


今日一日、覚えることがたくさんあったなぁ。


でも、意外に皆優しい人ばかりで良かった。


マアシャさんも、一見怖いけどみんなから頼りにされているみたいだし。


私も明日から頑張らなくちゃ…!



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No.19 蛍* 2017/04/25 15:04:31  削除依頼

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ガチャ、と音がして目が覚める。


いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


コツコツという靴音が室内に響く。


あれ…誰か入ってきた?


「ふぁ…誰です?」


重たい目を擦りながらゆっくりと身体を起こす。


今は何時だろうか。部屋はすっかり薄暗くなっていた。


机の上のライトがパチリと付けられ、突然の光に目を細める。


逆光に浮かび上がるシルエットが一つ。


「クレハちゃんでしょう?はじめまして」


にこやかに近付いてきたのは、オレンジのボブカットの髪をふわふわ揺らした同い年くらいの女の子だった。


細い目に優しそうな口元の、可愛らしい印象の子だ。


「私はルームメイトのピスティーよ。3年前からこの屋敷のご子息、ハインツ様のお世話係をしているの」


にこぉっと笑うその柔らかな表情を見たら、緊張が一気に解けた気がした。


不思議なオーラを纏った子だ。


「クレハちゃんはエリーゼ様のお世話係って聞いたわ。同じ立場同士、お互い仲良くしましょうね」


彼女の細い目がさらにキュッと細められる。


良かった、同じお世話係なら分からないことは相談できそうだ。


ホッとしたのと同時に、私は頭を下げた。


「よろしくお願いします…!」



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No.20 蛍* 2017/04/25 15:24:17  削除依頼

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「そんなに畏まらなくていいわよぉ。私のこともピスティーでいいわ」


ふわりと笑う。かすかに甘い香りがした。


「クレハちゃんは、もうロクデナシイズ家の人には会ったのかしら?」


ピスティーが小首を傾げる。


「ううん、まだ。今日は屋敷の案内だけ聞いて、もう休んでいいって言われたから」


私の言葉に、ピスティーは「なら良かった」と小さく微笑む。


「エリーゼ様は、少し変わったお方でね、自分よりも目立った人がお嫌いなの」


「は、はぁ」


目立った人が嫌いって…本物のクレハはそれでよくお世話係ができたものだ。


本物のクレハの苦労を考えて、心の中で苦笑する。


「貴女の顔、とても可愛らしいから、きっとエリーゼ様はよく思わないと思うの。だから…」


そう言ってピスティーは自分の机の引き出しから、何かを取り出した。


「はい、これを貸してあげるわ。お仕事の時はこれを付けているといいわ」


渡されたのは黒縁の眼鏡だった。それも、牛乳瓶の底のように厚いレンズがはめられており、掛けると目の前のピスティーがぐにゃりと曲がって見えた。


こ、これを付けて仕事しろと…?


正直こんな見辛い眼鏡は付けたくない。でも、エリーゼ様とやらが美人のクレハに嫉妬してしまうのなら仕方がない。


それに、ピスティーも好意でしてくれていることだ。無下にはできない。


曲がったピスティーが満足そうに笑う。


「うん、よく似合っているわ」


に、似合ってる?まじで?


うーん、こっちの世界の人のセンスはよく分からない。


「そうだわ!その長い髪も後ろでまとめた方が仕事しやすいと思うわ。後で髪留めを用意させましょうね」


「あ、ありがとう…」


私、どんどんダサくなってない?いや、これで良いのだ。


私がここに来た目的は、目立たず、脇役を演じきることなのだから。



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No.21 蛍* 2017/04/25 15:52:25  削除依頼

.


翌朝。


「おはようございまーす…」
「おは……」


私の姿を見たマアシャさんが一瞬固まる。


「…?なにかおかしいですか?」
「…なんでもありません。さあ仕事を始めますよ」


すぐに我に返ってテキパキと仕事を指示しはじめるマアシャさん。


恐らく瓶底眼鏡を掛けていたため、私だと気付かなかったようだ。


他の使用人達も私の顔を見るとギョッとしたように顔を逸らしてしまう。


…これ、逆に目立ってないか…?


一抹の不安が浮かぶ。


だが、マアシャさんの次の言葉でそれは緊張に変わった。


「クレハ。今からエリーゼ様のお召し替えを手伝ってきなさい」
「は、はいっ」


忘れていた。私は普通の使用人ではなく、エリーゼお嬢様のお世話係。


他の人とやることが違うのだ。


昨夜も寝る前まで、ピスティーにお世話係のあれこれの説明をしてもらったけど、どうも他人事のように聞こえてしまって実感が湧かなかった。


駄目だ駄目だ。ここでヘマをすれば悪目立ちしてしまう。


穏便に済ませるためには、第一印象は大事。


私は瓶底眼鏡をくいっと押し上げた。


「ようし、行くぞ…!」


いざ、エリーゼ様と初対面!



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No.22 蛍* 2017/04/25 16:26:21  削除依頼

.


コンコンッ


「し、しつ、失礼致しますっ」


動揺しすぎ。


高鳴る鼓動を抑え、私はおそるおそる扉を開けた。


陽の光の差し込む広い部屋。高価そうな調度品が置かれた室内を素早く見回すと、大きなベッドの脇に人影が見えた。


あの方が、これから私が生涯お仕えする、エリーゼ様…。


私はすっと視線を伏せた。


「初めてお目にかかります。私、今日からエリーゼ様のお世話係を致します、クレハ・アメディナートと申し…」


笑い声が降ってきた。女の子にしては低い、というか完全に声変わりを終えた男性の声…。


ハッとして顔を上げる。


目に飛び込んできたのは、程良く筋肉のついた男性の裸体。


「!?」


「ふんっ、どこの庶民が紛れ込んだかと思ったら、妹の新しい使用人か」



ピンクの柔らかそうな髪に、二重まぶたの奥に光る赤い瞳。不機嫌そうな表情は、昨日玄関広間で見た肖像画の男の子に似ていた。


「え…妹って…」


まさか。


サアッと血の気が引いていくのが分かった。


もしかして、部屋間違えた?


お着替え中だったのか、目の前に上半身裸で立っていらっしゃるのは、エリーゼ様ではなく、お兄様の…。


「おい、何か答えろ」
「は、はいっ!?」
「…うるさい。この家の使用人ならもっと上品に受け答えろ」
「す、すみません…」


というか、さっきから貴方の裸の上半身がチラついて挙動不審になっちゃうんですけど!


ど、どうしよう…っ!


「あれぇ〜、もしかしてクレハちゃん?」


聞き覚えのある、緊張感の無い声が部屋に響く。


私にはまるで救いの声のように聞こえた。


振り向くと、服を持ったピスティーが居たのだった。



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No.23 蛍* 2017/04/25 16:38:23  削除依頼

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「ピ、ピスティー!」
「なんでここに?」
「それが、部屋を間違えちゃって…」
「なーんだ、そうだったの」


にこにこと笑いながら、ピスティーは私の元へ近付いてきた。そして、こそっと耳元で話し掛ける。


「良くあることよ。エリーゼ様のお部屋は、1階上なの」
「ご、ごめんなさい…」
「いいのいいの。さぁ、もう行きなさい。ハインツ様には、私が上手く言っておくから」


ふわっと微笑むピスティー。


私はじーんと泣きそうになってしまった。


「あ、ありがとう!」


ぺこっと会釈すると、私は小走りで部屋を後にした。


パタン…。


扉を閉じると、どっと疲れが押し寄せてきた。


びっくりした…。


男の人の裸なんて見慣れないものだから、無駄に緊張してしまった。


今のがエリーゼ様のお兄さんのハインツ様か…。


「はぁ…」


ちょっと話しただけだけど、庶民を馬鹿にしたような物言いが気にかかった。


ピスティーはあんなのを毎日お世話しているのか。大変だな。


私も気を引き締めて向かわなくては。


あの人の妹なのだから、一筋縄ではいかないような性格なのだろう。


震える足に力を入れる。


今度こそ、エリーゼ様の元へ。



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No.24 蛍* 2017/04/25 17:01:54  削除依頼

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コンコンッ


「失礼します」


俯きながら入ると、ワイン色の絨毯が視界に入った。


ゆっくりと顔を上げる。


先ほどと同じような広さの部屋だが、どことなく女の子っぽい雰囲気の部屋。


そうか、花が多いんだ。


部屋の至る所に花瓶が置かれ、桃色や白、紫などといったパステルカラーの花々が飾られていた。


「遅いわ!何をしていたの?」


キンキンと耳に響く高い声が響いた。


「!」


視界の隅で桃色の癖っ毛が揺れる。


見ると、怒ったように頰を膨らまし、腰に手を当てた少女が立っていたのだった。


くりんとした赤い大きな瞳がこちらを睨んでいる。


可愛い…。


思わずぼーっと見とれてしまった。


「ちょっと?!聞いているの?」


「わ、ごめんなさい!」


「マアシャから話は聞いてるわ。アメディナートの子供だそうね」


「は、はい。クレハと申します」


「ふぅん…」


エリーゼ様は顎に手を当てて、見定めるように私を見つめた。


「地味ね」
「じっ…!?」
「私のお世話係なら、もう少し格好に気を遣ったら?」


あ、あれ?ピスティーの言っていたことと話が違うぞ。


私はごくっと息を呑んだ。


できることなら私もこの酷く見辛い眼鏡を取りたい。でも、素顔で生活していると、いつかこの国の王子様と出会ってしまった時、一目惚れされてしまう可能性があるんじゃなかろうか。


そうなれば、世界滅亡が起こってしまう。


「す、すみません。私、とんでもなく近視でして…この瓶底眼鏡無しでは生きていけないと言いますか…」


「あっそ。まあいいわ。せっかく綺麗な黒髪をしているのだから、手入れだけはちゃんとしなさいよ」


エリーゼ様はそう言うと、フィッと顔を背けた。


…ん?


なんか、思っていたのと大分印象が違うんですけど。



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No.25 蛍* 2017/04/26 15:32:32  削除依頼

.


「あ、お、お召し替えをお手伝いしますっ」
「もう済んだから結構よ。それより早く朝食を持って来てちょうだい」
「は、はいっ」


ソファーに優雅な動作で腰掛ける彼女。マアシャの話では私より一つ下の14歳って聞いていたけれど、とてもそうは見えない。


私はペコリと一礼すると、部屋を出た。


お、怒ってた?怒ってたよね…。


私が部屋を間違えるという鈍臭い失敗をしているうちに、彼女を長い間待たせてしまったのだ。


「はぁ…」


ここに来てから、第一印象最悪な出来事が多い気がする。


常に目立たないように立ち回れるという私の特技が泣いて呆れる。


兎に角、これから頑張って仕事を覚えて、挽回するより他はない。


まずは、朝食を持っていかなくては。



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No.26 (匿・ω・名) 2017/04/26 15:58:26  削除依頼

初コメです☆
難しい言葉とか漢字とか使ってて凄いですね!



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No.27 蛍* 2017/04/26 16:07:26  削除依頼

(匿・ω・名)さん

わあああコメントありがとうございます!恐れ多いです嬉しいですうう(ノ∀\*)
スマホで書いてるので、漢字は予測変換がやってくれます 笑笑



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No.28 蛍* 2017/04/27 22:36:42  削除依頼

.


「すみませーん。エリーゼ様の朝食を取りに来ましたー」


厨房に入ると、数人のコックと使用人たちが慌ただしく右往左往しているところだった。


「急げ!朝食まで時間ないぞ!」
「おーい、砂糖どこだー?」
「その果物はもう広間に運んじゃって」


火にかけた大鍋からは湯気とともにいい匂いが立ち上り、大きなオーブンはパチパチと何かが焼ける香ばしい音が聞こえてくる。


おお、ザ・厨房って感じ!


「これ持って行きますねぇ」
「あ」


働く人の中に見知ったオレンジの髪を見つけて、私はホッとする。


「ピスティー!」
「あ、クレハちゃん〜」


ピスティーは果物の盛り合わせのトレーを持っていた。


「あ、それ手伝うよ」


トレーに手を伸ばすと、ピスティーはそれをサッと避けた。


「え…?」
「これはハインツ様と当主様が広間で召し上がる用の朝食なの。エリーゼ様は、お食事はいつも自室で召し上がるから、別に盛ってあるわぁ」


そうなんだ。知らなかった。


ここでは女の人は自室でご飯を食べるというしきたりでもあるのだろうか。



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